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中国のEV市場が日米欧に与える影響

コラム

(2024/12/27)

今年9月、ドイツのフォルクスワーゲンが本国内の工場閉鎖検討を発表。これを受け、多くの従業員によるストライキが発生し、日本のマスコミでも多く報道された。その背景にあるのは、電気自動車(EV)の販売不振はじめコスト面での競争力低下といわれるが、さらにじわじじわりと影響を与えているのが、中国ブランドのEVとも言われている。世界最大の自動車市場である中国での販売事情が”回り回って”世界中に不穏な空気を漂わせているようだ。

・ドイツの自動車産業の今
日本同様、国の基幹産業として知られるドイツ。この国における自動車産業では、今、人材削減の風が強く拭き続けており、そのレベルは”嵐”のようだ。9月にフォルクスワーゲンが工場閉鎖検討を表明したが、同社では本国だけで30万人近くの従業員を抱える。一方、主力の乗用車ブランドでの稼ぎが下降線を辿っている。工場閉鎖を検討する同社は、同時に雇用保険を含む労働者協約の破棄も決め、新たな協約に向けて労使での話し合いを進めているという。だが、その内容は厳しい。労組側としての要求は7%の賃上げ。インフレなどを考慮して出した数字だが、逆に経営側はコスト削減が必要とし、10%の賃下げが必要と主張したという。現在、日本では国を上げて賃上げの努力を各企業に働きかけており、実際に大手企業による今冬のボーナスは前年比で2.11%増だっと報道されていることと比較しても、相当厳しい条件を突きつけられていることがわかるだろう。フォルクスワーゲンの経営側と労組側の交渉はいまもなお続いているが、経営側としては、「生産能力を削減し、新たな堅実に適応させなければならない」という姿勢を崩しておらず、工場閉鎖の可能性はいまだ撤回していないと言われている。目標は2026年までにおよそ100億ユーロのコスト削減であり、うち人員減などで40億ユーロ規模の削減を検討しており、現在国内にある10箇所の工場のうち、3工場が閉鎖される可能性があるとする。大規模なストライキからどのような”妥協点”を導き出すのか。引き続き、注視する必要があるだろう。

ドイツ国内で逆風が吹いているのは、自動車メーカーに限らない。製造に必要な部品メーカーも同様の動きを見せる。ZF、シェフラー、ボッシュといった大手メーカーが次々と中長期での大型人員削減を発表しており、どの労組も警戒を強めているようだ。いずれも、新車販売の鈍化が影響を与えていると言われており、物価高のあおりを食っている部分も少なくない。欧州連合(EU)域内の新車販売台数は、コロナ禍前の19年よりも2割ほど少ないままだと言われている。また、販売増を見込んで各車が投資したEVの売上も決して順調とは言えない。政府として、すでに昨年末の時点でEV購入補助金制度を終了した反動もあってか、今年1月から9月におけるEV販売台数は、前年比5.8%減という下降を辿ったという。

自動車大国であるアメリカも同じだ。大手のフォード・モーターが2027年末までにドイツ、イギリスを中心に4千人削減を発表済み。そして、12月に入って日本の自動車メーカーのホンダ、日産による経営統合というニュースに震撼した人も多いのではないだろうか。ホンダ、日産の今後については、また別途このコラムで触れる予定だが、少なくともEV市場については、やはり中国メーカーの存在を意識しないわけにはいかない。

・激化する価格競争の果てに
世界最大の市場規模である中国。もともとエンジンを搭載した自動車が主流だったころは、日本やドイツなどとの合弁企業が販売する車両が主軸となっていたが、エンジンを搭載しないEVへの市場開拓が始まると、中国は新たな産業としてEV製造メーカーの起業を奨励。また、消費者に対しては大きな補助金をもって自国のEV購入を後押しした。もはや外資系の自動車ではなく、中国本土では現地メーカーが次々と売り出す安価なEVを選ぶようになった。その結果、”外車”にシェアが急低下。厳しい状況に追いやられている。

それを裏付ける数字も出ている。今年1月から11月期の中国における新車販売台数を比較すると、トヨタ、ホンダ、日産3社いずれもが前年同期比で7.7~30.7%減っている。一方、自国のメーカーは、2019年に37.9%から2024年には59.7%まで拡大。当然ながら、日本に限らず、ドイツ、アメリカのメーカーは減少の一途を辿った。中国のEVメーカーが”雨後の筍”のように起業し、今はそれぞれの差別化に注力。航続距離などの基本性能での違いを打ち出すことよりも、大きなディスプレイを搭載するなど、車内での娯楽機能の充実を図るなど、消費者が喜ぶような工夫を続ける。日本であれば、EVの先駆者としてイメージが高いアメリカのテスラが根強く支持されているとはいえ、中国のBYDは日本市場へも本格参戦。日本の女優をテレビCMに使うなどして、クルマから遠ざかっていた若年層に訴求するなど、積極的な営業を仕掛けているが、本土では値下げ交戦に発展しており、外資各社の苦戦が続いているという。

現地にある日系の工場運営にも当然ながら影響が出ている。2023年に三菱が中国生産から撤退したのを皮切りに、今年に入ってからは日産が江蘇省にあった工場を閉鎖。ホンダも人員削減を計画しており、斜陽傾向にある。かつて”ドル箱”だった中国市場も、EVが主流になりつつある今、日独米のメーカーは事業縮小を余儀なくされている。

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